「その日」 そもそものきっかけ・39日間の物語 第六話

砂像を見上げる親子

↑砂像を見上げる親子

(払ってないが)1000万円の企画書

話をここで元に戻すと、Tシャツアート展をわたしたちが実施するに当たって、もう一人の発案者であり作品の提供者となる北出さんと会っておく必要がありました。もちろん北出さんにも発表の場を見ておく必要があります。6月15日(木)に北出さんは梅原さんと一緒に来町されました。その日、砂浜には、昨夜、産卵のために上陸したウミガメが這ったヒレの跡が残っていました。北出さんも興味深げに観察されていました。

夜は2人の歓迎会を町内の居酒屋で開きました。はじめこそ、2人を囲んで和やかに歓談するつもりでしたが、ちょっとしたことから客人を前にメンバー同士が大口論をはじめ、肝心の2人をすっかりしらけさせてしまいました。余談ですが、その後も、わたしたちのミーティングは口論すさまじく、よく「けんかをしているのか、議論しているのかわからない」といわれます。

そして1989年6月21日(水)*1。わたしのところに1通のFAXが届きました。かねてより梅原さんにお願いしていた企画書です。見たとたん「すごい・・・」と身震いを覚えました。梅原さんは、電話のむこうでわたしに「これは1000万円の企画書じゃ」と叫びました。わたしも「まさしく1000万円」と思いましたが、予算的な事情もあり、心の中だけにとどめておきました。

企画書には、わたしたちが侃々諤々(かんかんがくがく)の議論を行った中から生まれた言葉がちりばめられていました。それが梅原さんのすばらしいセンスで表現されていました。

砂浜郵便局に“おおがたはがき”を投函する子ども

↑砂浜郵便局に“おおがたはがき”を投函する子ども

私たちの町には美術館がありません。美しい砂浜が美術館です。
ものの見方を変えると、いろんな発想がわいてくる。
これこそが今、大方町にとって大事なこと。
4キロメートルの砂浜を頭の中で「美術館」にすることで、
新しい創造力がわいてくる。

砂浜が美術館だとすると
沖に見える「くじら」が作品です
海に打ち上がる「花火」が作品です
「海亀」が卵を産みにくることが作品です
「美しい松原」が作品です(だから残そうとしています)
「らっきょう」は砂浜の作品です
「黒砂糖」は無農薬の作品です。
磯の動物の名前をたくさん知っている「子どもたち」が作品です
4キロもある砂浜は私たちの大作ですが、この作品は毎日ちがう顔をしています
私たちは、考え、行動し、日本全国に「大切なことを伝えてゆく作品」を、この「砂浜という美術館」から、発信してゆこうと思います。

私たちが主人公
作品は、私たち自身が作らないといけない。
作品のテーマはいろいろある。
くじら・松原・産物・環境・自然・人・町・今地球にとって大切なこと
これらをテーマに、日本全国に砂浜から発信していく

発信していくには
新しい考え方・感性が必要
日々、私たちは新しい作品を創造していかなくてはいけない。
そのためには、新しい感性で作品を作っている人の考え方にも出会いたい。
毎年、一年の節目に、感性豊な人を呼んで、砂浜で作品を発表してもらおう。
私たちが企画を立て、全国から作品を募集して、大方町砂浜美術館に展示しよう。
「大方町砂浜美術館」を利用したい人に貸してあげよう。
外の人の新しい感性に出会いながら、私たち自身が、
私たち自身の感性で作品を作っていこう。
私たちの町には美術館がない。
これからも造ろうとは思わない。
なぜなら、美しい砂浜が美術館*2だから。
これこそが、私たちの感性である。

【『砂浜美術館ノート』(1997年発行・非売品)より】

最終話「笑って帰ったゼネコン営業マン」
第五話「Tシャツ売って20万円つくる」

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≪語り手≫
松本 敏郎(まつもと としろう)

砂浜美術館informal学芸員(*3)で、砂浜美術館立ち上げメンバーの一人。
現在は、南海トラフ巨大地震の被害想定において、日本一高い津波高34.4メートルを突きつけられた高知県黒潮町の情報防災課長として、「犠牲者ゼロ」を目標に、「南海地震とうまく付き合い、千年に耐えられるまちづくり」に取り組む。

●註

*1 6月21日 前日、松本氏たちはTシャツ展示の杭となる間伐材を町内の山に取りに行っている。
*2 砂浜が美術館 入野の浜で「砂浜美術館はどこですか」とたずねられても「ここ」といえない町民は多い。「そんなウソをいうてもかまんろかかね」と本気で心配している人いる
*3 informal学芸員 以前、名刺に「砂浜美術館学芸員」と入れたところ、「学芸員は国家資格」と指摘され、以来informarl付き。

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立ち上げに携わったスタッフとメンバーも入れ替わり、地域内外とさまざまな人が関わりながら活動を継続してきた砂浜美術館。そんな人びとのインタビューやエピソードを交えながら、1997年から2008年までの10年間の活動記録を掲載しています。

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